診療室日記

「私のひとりごと」Part 3

人畜共通感染症

乾癬のPUVA BATH療法

寝たきり老人の疥癬

デジタルカメラの応用

誤   診

誤   診
 投稿者:
iwata 投稿日:11月23日(日) 23時58分32秒

 その昔、天皇の侍医までされた東大の或る名誉教授が医師として現役時代を振り
返り、自分の誤診率は約4割であったと告白されたそうです。世間は東大の有名教
授にしてその4割という高い数字に一様に驚いたのですが、医療界では逆にその数
字の低さにさすがと感心することしきりであったと聞き及びます。

振り返ってこの誤診率を聞けば当時の現役の先輩医師達と同じく、やはりその数字
に正直云って自信がぐらつきます。

皮膚科では視診がもっとも重要ですが、それでも経過を診ることをおろそかにでき
ません。確定診断でき得る時期まで患者さんの前で診断を保留してみる勇気、すな
わち、今はまだ診断がつきません(分かりません)のでしばらく経過をみさせて下
さいと正直に云える勇気です。ともすると、何らかの診断をその場でつけなくては
と焦り、最初の皮疹のみから的はずれな診断名を告げてしまい後から後悔すること
の如何に多いかを情けなく反省します。

「水ぼうそう」の初期疹2つ、3つを診て「虫 さされみたいですね」などと即決診
断し、後で恥をかいたこともありました。さすがに最近では恥の経験から智恵もつ
き、「ん?」と思ったら「明日またみせて下さいね」と云う言葉も忘れません。

患者さんの前で正直に、診断に迷っている旨を表すと後の診療に影響すると考える
医師も少なくありませんが、やはり言下にパシッと診断できる場合は良いのですが
そうでない時は顔にも口調にも現れてしまいます。

最も具合悪いのは自分の否定した診断が、後で覆った時です。ましてや、患者さん
自身がそれを疑って来院したのに「どうも貴方のおっしゃる○○ではないみたいで
すよ」と否定した後、数日後に正に患者さんの疑った疾患であった場合です。これ
では、患者さんの顔は二度と拝めません。

従って、通常このような経緯は誤診をした当の医師には分かりません。無論、患者
さんは2度とその医院に現れることはないからです。故に自分の誤診に気付くこと
もなく、己の至らなさを猛省しその苦い経験からその後の戒めと する大切な機会を
逸するのです。

最近、そんな恥ずかしくも大切な経験を2つもしました。

一つは或る耳鼻科から紹介された1才半の坊やです。滲出性中耳炎で抗生剤を処方
されていたその坊やは、内服が終了して3、4日頃から右足のゆびの間に紅い小さ
な点状の斑点がわずかにみられました。耳鼻科の先生は、お母さんが数日前に内服
した薬剤との関連を心配しておられるので診てほしいと紹介状を下さいました。

初診時、右足のゆびの背部と趾間部にわずかに2mm程の点状紫斑が2、3ケみら
れましたが、他の部位には何等発疹はありませんでしたし、薬剤内服もすでに数日
前に終了していたことでもあり、「他の部分には全く発疹がありませんし、片足の
ゆびに軽い点状の斑点だけですからまあ薬疹は心配ないと思います。それに薬もす
でに終了していますし、第一、乳幼児では薬疹よりウイルスや細菌によるものの方
が多いですから。きっと、靴をはいてヨチヨチ歩きが始まって体重が爪先にかかっ
て点状の紫斑が生 じたんじゃないでしょうか」とお母さんに説明致しました。

その後、1週間程何等連絡もないままに忘れて居りましたところ、10日目になっ
て再びお母さんと坊やが来院されました。診察室に入るなり、そのお母さんは怒り
心頭で曰く「先生、あれから大変でしたんですよ! 翌日頃から身体に大きな紅い
斑点ができて広がってしまったんです。熱も出てきたので、やっぱり心配になって
市民病院の小児科へ緊急で連れていったんです。点滴までしてあれこれ検査したら
結局、薬疹じゃないかと云われたんですよ!耳鼻科の紹介状に書いてあった薬の名
前を紙に書いて下さい」、ビックリしてもう一度、詳しく経過を伺うと、小児科で
は薬疹の根拠としての薬疹検査は未実施ですが、他の疾患を除外してゆくと薬疹が
もっとも疑われるとのことでした。そして、さらに詳しく内服時の状況を尋ねると、
坊やは始めてその抗生剤を内服したことが分かりました。ここでピンと来ました、
と同時に己の迂闊さを心底恥じました。

乳幼児の場 合、実は始めて薬剤を服用するケースもあり、生まれて始めて飲む薬は
万一、それで感作(薬剤に敏感になること)される時には一定期間かかり、服用終
了後2週間ほどまではまだ皮疹発生に注意すべきだったのです。不信感をモロに顔
に出したお母さんを前に、正直に当方の至らなさをお詫びしました。

二つ目は、2日前に帯状疱疹を少し心配して来院された60才の女性です。患部の
周囲に痛みもなくむしろ痒みを訴えられ、発疹出現前によくみられる神経痛様の疼
痛もありませんでした。「ヘルペスという病気は大丈夫ですわね?」との問いに、
「痛みもありませんし水疱もないから、まあ違うと思いますよ」と答え外用剤を処
方致しました。しかるに、2日後に同じ町の親しい皮膚科の先生から電話が入りま
した。「○○さん、ヘルペスだったよ」、この言葉に思わず「ああ、やってしまっ
た!」、どうして「経過をみてみましょう」の一言が出てこなかったのでしょう。
後悔することしきり。日頃、「最初に痛みのない帯状疱疹は、あと で痛くなって大
変なこともありますよ」なんて患者さんに説明しているのに..............。
これを自分で忘れてしまっては話になりません。どうも診断に焦りがある時がイケ
マセン。患者さんの訴えをよく聞かねばなりません。

後で反省しても遅いのですが、自分の誤診について教えてくれたあのお母さんや親
友の皮膚科の先生に深く感謝しています。このような事は誠に貴重なことで、大半
の誤診は自分で気付くこともなく苦い教訓として学ぶこともありません。考えてみ
ればこれは実に恐いことです。神ならぬ人間は悲しいことに失敗からも大いに学ば
ねばなりません。

自己の診断について他に検証されるシステムがあれば、大変厳しいことですが、医
療の質向上に極めて貢献することは間違いないでしょう。世はまさに情報公開と信
用評価の時代、金融機関のディスクロージャーではありませんが、診療所の医師も
その誤診率まで求められ評価される時代がやって来ないとも限りません。少なくと
も患者さん方には切実な要 望となり得ます。「医者を選ぶも寿命のうち」と云われ
ますが、情報公開とはつまるところ自己の「決定と責任」の拡大に他なりません。
将来、「失礼ですが、貴方の誤診率はおよそどのくらいですか?」と患者さんに尋
ねられたら、ハテ、どうしましょう。

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デジタルカメラの応用
 投稿者:
iwata 投稿日: 11月19日(水) 23時31分23秒

 昨今、第2世代のデジタルカメラが出てきて、その性能は飛躍的に向上してきま
した。若い世代を中心に普及しはじめ、高性能化と低価格化が同時に進みつつあり
ます。それに伴い様々な応用が始まりました。こうしたホームページを開いていま
すと、今や電子画像が添付された医療相談メールが突然、舞い込む時代です。

先日もそのような画像付きの医療相談メールが届きました。それも海外からです。
海外と云っても在外邦人の方ですが、外国にいますと、ちょっとした医療相談も大
変ですから日本の医療ホームページに相談するのは便利なのかも知れません。イン
ターネットを大いに利用したと云えるでしょう。しかも、同じようなメールを複数
の医療機関に送り、得られた回答を見比べることも可能です。

今のところ、多くの医療機関がこうした医療相談に概ね好意的に回答を出している
ようですし、第一、相談は無料です。回答が来るかどうかは分かりませんが(ホー
ムページを持つ医療機関の社会奉仕的な側面がございます 故)、なかなかに賢い利
用法かも知れません。

最近、医療機関に直接メールを送るのではなく自分の病変部の写真を送ってサーバ
ーにアップしてもらい、その医療相談ホームページが契約する医療機関から回答を
得るというサイトも出現しました。これなら確実に回答を得ることも可能です。
ただし、画像登録は有料です。

メディカルコミュニケーションセンター(IMECOS)
http://www.iijnet.or.jp/cosmos/imecos/
(現在は試験運用の為、無料。H10.2月より開始)。

皮膚科では、病変部の状態を知ることは診断上最も重要です故、従来の文字のみの
情報による相談よりは、格段に診断の的が絞れてくると云えるでしょう。ただ、そ
の皮膚病変の中で疾患のもっとも典型的なものが撮影されているかどうか、すなわ
ち、もっとも診断上価値のある皮疹であるかどうかが問題となることもあります。
これを見極めるのも我々の仕事ですので、単にもっともハデな部分のみの写真では
かえって診断を誤る結果にもなりかねません 。また、あまり低解像度のスナップ写
真のようなものでは診断の助けになりません。

現在、私が臨床応用しているのはデジタルビデオです。このビデオカメラで撮影し
た動画から最適のコマの部分を静止画として落とし記録しています。これで臨床記
録をとりパソコン上で画像データベースを構築したり(経過記録等)、大学医局へ
の電子メールに添付して症例検討をしてもらったりしています。将来は患者さんで
忙しい方や遠隔地の方であまり通院できない方から、皮疹推移をデジカメ画像とし
て送ってもらうことも考えています(もっとも患者さんがデジカメとパソコンを有
し、かつインターネットを利用していることが条件ですが...)。

今、一人の患者さんがお父さんの海外赴任で2年程日本を離れる方がいます。幸い
このお父さんはパソコン大好きでデジカメも持っていますし、インターネットも会
社で大いに利用なさって居られます。アトピー性皮膚炎の息子さんは環境要因が大
きいと思われ、はたして海外での生活で良くな るかどうかとても心配です。

そこで、お父さんに先の計画を打ち明けてみますと、二つ返事で承諾して下さり、
病変部の経過を時々デジカメで記録して、当方へ送って下さることになりました。
皮疹撮影上の注意点やある部位の経過をみる為の決まったフレーミングの設定、さ
らには現地での治療のことなど打ち合わせをして、来年2月の出国にあわせ、これ
から準備に入ることになっています。私的な遠隔地医療?&相談の実験、果たして
うまくいきますでしょうか?

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寝たきり老人の疥癬
 投稿者:
iwata 投稿日: 11月10日(月) 12時14分09秒

 在宅の寝たきり老人に疥癬が広がっています。「疥癬」とは「ひぜん」とも
云い、ヒゼンダニというダニが皮膚にもぐり込んで激しい痒みと紅いブツブツ
ができる皮膚病です。戦後大流行しましたが、衛生状態の改善、殺虫剤の普及
により一時は激減したのですが、海外旅行が活発になってから再び持ち込まれ
現在では全国に広がっています。通常、家族内で感染することが多いのですが
当直室、仮眠室、寮、病室、老人ホームなどでベットや寝具を介して感染し、
集団発生することもしばしばです。残念ながら、病院や老人保健施設などで高
齢者が入院したり、ショートステイなどの介護を受けた際に感染することもあ
り、その後、在宅で介護を受けている間に入浴などがうまく出来ずに全身に広
がってしまうケースもあり問題になっています。

症状は、指のまた、腋、陰部などに小さな紅いブツブツが沢山出来て、猛烈に
痒みがあります。男性では陰嚢に比較的硬い米粒くらいのしこりができること
が多く、特徴的です。

寝 たきり老人における疥癬の特殊性として次のような点があります。
#1 痒みを訴えることが出来ない方(意識障害等)がある為、発見が遅れる。
#2 高齢者には皮脂減少性湿疹や乾皮症、基礎疾患による全身に痒みをとも
  なう場合が多く、疥癬と鑑別を要することが多い。
#3 経過が長く症状が強い疥癬は通常の疥癬の病状とは異なることがある。

診断は、皮疹をメスでうすく削ってこれを顕微鏡で調べて疥癬虫やその虫卵が
見つかれば確定診断がつきます。ただ、いくつかの皮疹を調べないと見つから
ない場合もあります。

治療は、イオウ剤の外用や安息香酸ベンジルローションなどを用い、ムトーハ
ップ浴(湯ノ花:イオウ成分)を行いますが、ここで注意が必要なのはイオウ
カブレです。ムトーハップの濃度を濃くしたり、イオウ製剤をすり込んで使用
すると真っ赤にカブレでしまう人がいます。尚、患者さんの寝具、ベッド、衣
類は消毒する必要があります。また、家族全員で治療することも重要です。

高 齢者の増加と在宅で介護をうける方が増えて来て、褥瘡(床ずれ)とともに
この疥癬の診断・治療は皮膚科における往診の最も多いもののひとつです。

先日も、在宅訪問診療をしておられる先生からの依頼で寝たきりのお婆さんを
診察に出かけましたが、やはりこの疥癬でした。この先生もおっしゃっておら
れましたが、在宅医療と云う名の元に家族への負担が重くのしかかり、往診で
いつも社会の縮図を見せつけられ、日本は決して経済大国でも裕福な国でもな
いことを知らされるとのことでした。そんな中で「疥癬」も確実に広がって来
ています。今後、もっともっと寝たきり老人が増加したら、一体どうなってい
くのでしょう? 日本中の皮膚科医が何らかの形で在宅医療に関わることにな
っていくことになるでしょう。

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乾癬のPUVA BATH療法
 投稿者:
iwata 投稿日: 10月22日(水) 12時07分22秒

 「尋常性乾癬」、皮膚病の中でもやっかいなこの疾患の治療はどこの皮膚科で
も大変です。患者さん自身も長年の治療にうんざりしてしまい、精神的なケアが
必要です。乾癬は伝染する病気でもありませんし、内蔵に変化がおよぶものでも
ありません。皮膚の病気として強い痒みがある訳でもありませんが、紅くガサガ
サした局面が繰り返し多発し多くの患者さんが憂鬱な気分になってしまいます。

現在のところ、真の原因は判明していませんが皮膚の表皮部分の分裂増殖の乱れ
が基盤にあることが分かっています。また、真皮の部分にも炎症の際に動員され
る各種炎症性細胞が多くみられ、毛細血管は拡張し表皮での異常増殖に対してそ
の代謝亢進を維持するようなエネルギー供給を助長してしまっています。結果、
表皮肥厚と不全角化という云われる未成熟な状態のままの角化細胞が積み重なり
皮表からガサガサと粉のように落ちる鱗屑を伴った紅くピンク色の局面が多発し
てみられます。

治療は、外用としてステロイド剤( それも強力なもの)をはじめ尿素剤、タール
剤の外用や、内服治療(チガソン、シクロスポリン、メソトレキセートなど)が
試みられていますがいずれも対処療法にとどまりますし、また内服による副作用
にも注意しなければなりません。そんな中で近年試みられる方法のひとつに、紫
外線を利用した光線療法があります。

一般に用いられる紫外線の中で、もっとも利用されるのは長波長紫外線といわれ
るUVA(Ultra Violet A)領域の波長を用いた治療です。この
治療には、ソラレン(Psoralen)という物質をあらかじめ外用したり、
内服したりして表皮中に取り込んで後、UVAを照射するのでPUVA療法と呼
ばれています。このようにして異常分裂増殖する角化細胞のスピードを抑え、同
時に炎症を抑制して少しでも正常な角化に近づけようとする療法です。

従来、外来で行われているPUVA療法の実際は、軟膏タイプのソラレンを患部
に外用して後、数十分待ってからUVAを照射する方法ですが、 これよりずっと
効率的で照射ムラの少ない、かつ短時間で終了する方法としてPUVA BAT
H療法が便利です。ソラレン錠剤を内服して行う内服PUVA法よりも眼への光
の影響の点でより安全でもあります。

実際の方法は、まずローションタイプのソラレン外用剤を風呂へ入れて15〜2
0分程、入浴してから来院して頂き、すぐにUVA照射装置の中で(当院では、
6面タイプの電話ボックスのような装置で全身照射しています)数分間照射して
治療します。これを週に1〜2回施行しますと、効果の早い方で5週間くらいか
ら、遅い方でも8週間程で落屑が終了し、患部局面の皮表が平らになって効果が
現れてきます。その後皮疹が完全に無くなるまで続行した後、2週間に1度程の
維持照射に切り替えますと、あとは効果が数週間〜数ケ月持続致します。再発し
て来たら、また同様のやり方で照射した後、寛解維持療法に移行致します。

皮疹が消失している間の患者さん方の晴れ晴れとしたお顔を拝見するのは、本当
に 気持ちが良いものです。こうして全身に多発していた皮疹がなくなりますと、
旅行先の温泉でも気兼ねなく入浴できますし、軽く日焼け(照射により躯幹部が
サーファーのように軽く日焼けします)した健康そうな肌に満足される方もいら
っしゃいます。

乾癬の根治的治療が確立されるのはまだまだ先のようですが、それまではこうし
た寛解維持療法で良い状態を保つ治療を、外用療法などと組み合わせて行うのが
現実的な対処と云えましょう。

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人畜共通感染症
 投稿者:
iwata 投稿日: 10月9日(木) 09時34分23秒

 ヒトと動物との間で感染する疾患は数多くあります。皮膚科においても、あ
る種のダニ(ネコ疥癬、犬疥癬)がペットからヒトに感染する例がありますし
、ペットの皮膚についたカビ(動物の白癬菌)がヒトの皮膚に感染する場合も
あります。

先日、6才の女の子とそのお母さんが腕や首、躯幹部に2〜3cm程の環状の紅
斑に軽い鱗屑をともなった皮疹が多発して来院されました。聞けば、ここ3週
間程の間に先ずその女児の前腕に生じ、徐々に首や躯幹部に増加して後、やが
てお母さんの腕にも同様の皮疹が生じてきた由。

軽い痒みがあって、家にある湿疹の外用剤を塗布しても奏効せず徐々に増えて
来てしまったようです。個疹の特徴と分布、さらに皮疹出現のエピソードから
皮膚の真菌症(カビ)を疑い、早速病変部の鱗屑から真菌顕微鏡検査を実施致
しましたところ、案の定、真菌菌糸が多数みられました。

さて、このタイプの真菌症の原因について、先ずペット、とくに飼い猫の有無
とそのネコにおける病変(脱毛 )を確認してもらうことは皮膚科の常道です。
そこであらためて飼い猫の有無を問いますと、やはり比較的毛の長い、シャム
猫風のネコが家へ迷い込んできたので、1ケ月前から女の子が熱心に飼い始め
たとのことでした。

もう、これだけの状況証拠がそろえば、本症を「Microsporum canis による皮
膚真菌感染症」とほぼ診断出来ます。本症は、云うなればネコやイヌのタムシ
(白癬)が接触によりヒトに感染して来たものと云えます。お母さんも一緒に
ネコを世話するうちに、続いてネコから感染したようです。

治療として、子供さんとお母さんに抗真菌剤の外用を処方致しました。2週間
後に経過をみせて頂く予定でお帰り頂きましたが、2日後に突然また来院され
て当方いささか当惑致しました。ハテ、外用剤で何かカブレでも起きてしまっ
ただろうか? 心配しつつ診察室に入って頂きますと、

お母さんと女の子が今度は大きな毛の長いネコを抱えて診察室へ入って来まし
た。診察室へペットの動物が入ってくるのは開 院以来初めてでしたので、めん
くらいましたが、聞けば、大事に飼い始めたネコを捨てることは出来ないので
一緒に診察して、ナント、治療もして欲しいとの子供さんの切なる訴え。

一瞬、これは当方の管轄外、守備範囲を越えている旨を御理解頂くべく説明し
ようと女の子の顔をみると、その訴えるような眼差しに、つい口ごもってしま
いました。

さて、それからが大変。ネコの頭や腹の脱毛巣の鱗屑からも一応、カビを証明
せんとの、ささやかな学問的興味が災いしました。メスで体表を軽くこすり鱗
屑をとろうとしたその瞬間、処置台からパッと身をひるがえして飛び去ったネ
コちゃんに診察室は一大パニック!

部屋のあちこちを飛び移って逃げ回るネコは追い回しても容易には捕まりませ
ん。診察室の時ならぬ異変に、待合い室の患者さんまでビックリ仰天。受付か
ら中を覗き込む人まで出る始末。処置台やら机の下、薬品棚の上に飛び回って
逃げるネコを大汗かいて追いかける様は我ながら情けないものがありました 。

なんとか部屋の隅に追いつめて捕獲した時は、すでに当方もクタクタ。でもこ
うなると、こちらも意地でもカビを証明したくなるので不思議です。三人がか
りでネコを押さえ直し、やっとの思いで鱗屑を採取して見事カビの証明に成功。
疲れ果てましたが、妙に充実感はありました。

さてさて、治療は先日処方した外用剤をネコちゃんにも塗って頂ければ反応す
るハズですが、今度はお母さんがネコちゃんの分も処方して欲しいと困った訴
えをなさいます。無論、そうしてあげたいのはやまやまですが、如何せん、現
行の健康保険制度下ではネコちゃんはその恩恵を享受することが出来ません。
ここはひとつ、当方、その話しを聞かなかったことにして、お二人が御自分の
病変に外用して足りなくなったので処方致しますとだけ答えておきました。そ
れにしても、こんな大変な診察をしたのも、こんな毛深い方?の皮膚の検査を
したのも、当方初めての経験ではありました、ハイ。

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